僕はそれでも恋をする


「うーん、じゃあ渚はどこ行きたい?」


相変わらずニコニコしている春人。


春人って、意外と緊張しないタイプ……だったり?


私ばっかりドキドキさせられて……なんだか悔しいな。


「私も……どこでもいいかも」


「…………」


本当は、行きたい場所がたくさんあるんだけど、春人の笑顔を見たらどうでも良くなった。


観光地より、春人といる事を楽しもうかな。


「この後、お昼食べに行こ」


「あ、うん……!」


初デートなんだもん。


楽しまなきゃ損だしね。


「――ありがとうございましたー」


レジの店員さんの声を背に、本屋さんを後にする私達。


隣を歩く春人は、本の入った袋を提げて嬉しそうにしている。


春人との初デート。


私は昨日、夜も眠れなくなりそうなほど楽しみでドキドキしていたのに。


春人は、何でこんなに普通なの?


遊園地に行った時は、頬を赤くして照れてくれていたはずなのに。


……まさか、春人って実は私の事好きじゃないんじゃ…………


「ねえ、渚」


「!! は、はい!」


トーンが少し低くてビックリした。


しかもこちらに目線を向けないで。


「なんで……名前、呼んでくれなくなったの」


……え?


一瞬、何のことか分からなかったけど、ハッとした。


春人って呼んでって言ってくれて、その日の昼までは名前で呼んでた。


だけど、途中から突然苗字に戻してしまったから。


春人、やっぱりその事気にしてたんだ……。


「何ていうか、春人の事が分からなかったの。私の事、どう思ってるんだろうって。春人は、好きじゃない女の子と名前で呼んだりするのかなって。そう考えたら、なんか悲しくて……」


私は女の子の中の一人でしかない。


そう思って悩んでたっけ。


「……僕ってそんなにたらしに見えるの? なんかそれ嫌」


少し前を歩いていた春人が足を止めて振り返った。
頬を膨らませてムッとした顔で。


「え……春、人」


やばい。どうしよう。


「僕は好きじゃない女子を名前で呼んだりしない。最初は……いきなり写真撮ってきたから、ビックリしたけど。でも、渚の頑張ってる姿とか笑顔とか、好」


「可愛いっ……」




「――え」



春人が、可愛い。


笑顔も可愛くて、天使みたいで本当に好き。


でも、拗ねてる顔……すっごく可愛い!!!


「……渚、よだれが」


「へ!? あ、ごごめん!」


可愛すぎてよだれが……!


って、私こんなだからフミちゃんに変態だなんて……!

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