僕はそれでも恋をする
「……は、春……人?」
いくら可愛い春人だからって、こんな事をされたらドキドキが止まらない。
恋愛漫画のヒロインの気持ちが、凄く分かった。
「……まだ、帰りたくない」
いや、もうむしろ死んでもいいかも。
本当に、可愛いんだから……。
「あっはは……じゃあ、あとちょっとだけ一緒にいよ?」
私も、本当ならずっといたい。
何度時間が止まって欲しいと願ったことか。
「ほんとに?」
「うん。まだ暗くなってないし、お母さんに電話すれば大丈夫」
そう言ったら、あからさまに春人は嬉しそうに微笑んだ。
抱きついたまま春人の笑顔って……本当に死ぬよ私。
「今日送っていくから! 渚といたい」
「でも、両親が心配しない? 春人家近くないでしょ?」
「心配しないよ。僕、男だし」
何を心配するの! とちょっとふくれっ面になる春人。
いや、春人なら十分危険な気もするけど。
ん? そう言ってる私が危険人物だったり!?
「ねえ、春人って両親に女の子扱いされたりするの?」
「はぁ!?」
突然変な質問をしてしまった。
春人は確かに男の子だけど、女装をしたらそこら辺の女の子より普通に可愛いと思う。
本人は、凄くそれを嫌がってるけど……。
「別にされたことないよ。てか、渚っていつもそうやって僕を馬鹿にするよね……」
「えー? 馬鹿にしてないよ。ほら、女の人でもさ、凄くカッコイイ人いるじゃん? フミちゃんみたいなさ」
フミちゃんは、ポニーテールが似合う女の子だけど、見た目も性格も男前そのもの。
まさに、春人の対義語はフミちゃんって感じ。
「そうかな。桜さんは……凄く女の子らしいと思うけど」
「…………へ? あれ、フミちゃんは結構好印象だったり……?」
「……好きって訳じゃないけど。でも、桜さんは強がってるだけで、本当は優しくて乙女なんだなって」
フミちゃんが……乙女。
想像ができないけど、春人は何か知ってるのかな?
「人間観察。やってみると結構分かるよ」
「へ、へえ……春人、すごい」
だからチトセちゃんのこと、裏まで見ていたのかな?
あれ、だとしたら私のこと……。
「全部分かってるの!!!?」
春人の事を考えてニヤついてることも写真を眺めていることも手を繋いだりデートをする妄想していることも全部!?
「……いや、そんな焦った顔しなくても僕さすがに心の中まで読めないから。誰がどんな感情でいるかぐらいしか、分からないよ」
でも、春人ってすごい。
人間観察、か。
「あれ? でも、それなら私が春人の事好きだって気付かなかった?」
私、フミちゃんにもチトセちゃんにも、椎名君にもバレたのに。
「……渚は、何を考えてるのか全然分からなかった。落ち込んでる時とか喜んでる時は分かったけど、誰が好きなんて全然分からなかった」
春人、もしかしてかなり鈍感なんじゃ……。