白と黒のコーヒータイム
「まあ、そこが俺の中で困っていることになるんだよな。」

「はあ?」

自分の中のもやもやと向き合っていた隙にどうやら名村はまたも仕掛けをしてきたらしい。

「今の俺は誰とも付き合ってない。と言うか、かなり前から恋人はいない。それは何故か。」

問いかけているような、独り言のような曖昧な感覚に国見も困惑を隠せない。

でも名村の視線はまっすぐに国見を捕らえているし、その先はどうやら国見の反応次第で出方を変えるように待ち構えているようにも感じられた。

つまりは独り言ではない、ということだ。

ならばと国見は口を開いた。

「何で?」

「俺はお前が好きなんだよ、国見。」

要求に答えるべく問いかけてみれば待っていたのはまさかの爆弾だったなんて。

からかわれたのか。

そんなことが過りながら睨めばその衝撃に体が硬直してしまった。

目を見れば分かる、これは冗談だとはぐらかしたり終らせるつもりはない目だ。

本気だとすぐに伝わり国見は息を飲んだ。

顔が熱い、心臓が痛い。

体が疼くような感覚に大声で叫んでこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。

何でこんなときに手を掴んでくれていないのか、掴まれていたのなら逃げ出す気も起きたのに体が自由だと逆に動きにくくなるなんて。

「どうなの、国見。どんな気分?」

そんな答えの聞き方があるだろうか。

しかしそんなツッコミを入れる余裕のない国見は口元を震わせながらなんとか声を絞り出した。

「は、恥ずかしい。」

それは国見の本当の気持ちだ。

イエスともノーとも取れない言い方に名村は思わず笑ってしまった。

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