白と黒のコーヒータイム
もちろん国見には名村以外にも沢山の同期がいた。

同年も年下も年上もいる。

同期といっても社会人歴が同じなだけで今まで生きてきた経験値はまるで違った。

大学の時もそれは感じることがまああったが社会人となってからは特に強く感じるようになったと思う。

これまでの取り巻く環境も違うから既に結婚したり子供もいる同期だって少なからずいるらしい。

順調な人生設計、ここはあえて彼らの苦労を見ないことにしよう。

特定の相手、伴侶、愛しい子供がいる時点で何もない国見からすれば順調な人たちになるからだ。

「ご注文はお揃いですか?ごゆっくりどうぞ。」

「どうも。」

何てことない受け答えだが、それが出来る人と出来ない人がいる。

出来ない人間からすれば羨ましいことこの上ないスマートさな訳で、まだ買えずにいる腕時計を見つめて国見はため息を吐きたくなった。

幼く感じてきた腕時計は心なしかコンディションを乱している気がする。

「んで?今回フラれた理由は何。」

店員が下がると名村は刺し身に手を伸ばしながら本題を突いてきた。

そうだよな、そこが気になるよなと頷くも口は重くなる。

人生経験値のレベルの差は気にしないことにして仕方なく話すことにした。

「…重いって。」

「何が?」

「私が。重すぎるって言われて終わった。」

何となく気まずい空気に包まれた感覚になり国見はビールを勢いよく飲み干した。

その間の名村は怪訝な表情で固まっている。

その理由も分かるだけに国見は逃げ道をと通りすがりの店員に追加のビールを注文した。

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