青春と呼ぶには僕らはまだ青くない。
「お前、ナルの事も負けたフリってやつ?」
兄貴のいつになく低い声が部屋に響いた。
「負けたって意味分かんないんだけど。」
机とベッドの距離がこんなにも近かったっけ?
兄貴に僕のざわつく心音が聞こえるんじゃないかって。
そんな事を思いながらも何でもないフリをして言った。
「ふうん。デキの良いお前でも分かんない事あるのな。」
「デキの良いってなんだよ…それ。兄貴が何を言いたいのか僕には分からないって事だよ。」
兄貴の遠回しな言い草に苛立ちが隠せない。いつだって兄貴はそうだ。オセロにしてもいつだって周りからジワリジワリと攻めてくる。ゆっくりと逃げ場を無くしていくんだ。
「じゃあさ、ハッキリ言おうか?この前、お前が先に帰った後、俺とナルがどうなったかって話し。」
「えっ、」
「なに?ビビってんの?ハッキリ言わなきゃ分からないって言うから言おうとしてんのに。」
あの後…
僕がナルと兄貴を残してその場から去った後の話し…
互いに思いを寄せ合っていた二人を僕が自分のエゴで無理やり引き離していたんだ。引き寄せ合うように再会したなら真実を聞くまでもない。
もう手詰まりだ。
やっぱり兄貴には敵わない。
実際あの後、ナルから連絡が来ない事も彼女が出した答えなんだろう。
あの場から逃げ出した僕はやはり弱い人間だ。
僕はこの敵わない兄貴に対して今回ばかりは本気で負けるしかなかった。
せめて、最後だけはちゃんと正面からぶつかって、潔く、僕が好むシンプルな形で全てを受け入れようと。
「僕はナルが兄貴を選ぶなら身を引くよ。」
本当の思いだ。
彼女をこれ以上、苦しめたくない。
彼女が兄貴を選ぶなら…
潔く身を引くのが僕なりの彼女への愛情だ。
僕の言葉に兄貴はーーー