青春と呼ぶには僕らはまだ青くない。
「えっ、うん、まぁ。」


歯切れの悪いあの人の言葉に妙な空気が流れる。


「以前、実習で俺の通う高校に来られていたんです。その節はお世話になりました。こんなところで会うなんて驚きましたがお元気そうで何よりです。」


俺の方からスッと前に出て、わざとらしいくらいに他人行儀な挨拶を告げると


「お世話だなんて……。」


「実は来春に就職予定の会社絡みでたまたまこちらに来ておりました。小さな会社ですが俺の夢に少し近づけそうです。先生のアドバイスのお陰です。ありがとうございました。ではこれでーーー」


一気にまくし立てるように話すとその場から立ち去った。


折角あの人が掴んだ幸せをいい加減に現れた俺が壊す訳にはいかない。


切符を買うために券売機に足をすすめる。


小さな町の駅はやはり小さくてすぐ近くに三人の気配をまだ感じる。


きっと俺とあの人の間に漂う空気を読み取って何かを感じたかもしれない。


けれどあの男ならあの人を責めはしないだろう。


優しそうな雰囲気を持ちながらも芯の強い目をして俺を見ていたから。


スムーズに切符を買い改札を抜けて行きたいのにこんな時に限って部活帰りなのだろうか?地元の学生で少ない券売機は混み合っている。


それでも何とか切符を買い、いよいよ改札に向かった時、


「ママっ。」


小さな女の子の声が響いた。


その声に反応するとさっきあの人に手を繋がれていた女の子が改札から出てきた別の女性に抱きついていた。


そして男もその女性の手から荷物を取るともう片方の手はごく当たり前のようにその女性の肩に回された。


誰が見ても仲睦まじい家族の姿がそこにあった。


改札の前でボーッと立ち尽くす俺の視線の先であの人はその家族に何かを告げるとゆっくりとこちらへやって来た。


そして


「少し時間ある?」


俺はただ首を一つ縦に振るのがやっとだった。






< 19 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop