青春と呼ぶには僕らはまだ青くない。
「あの手紙ね、何度も何度も書いたんだ。」


彼女は顔を上げると窓の方へと目線をやり、ゆっくり話し出した。


「君の事だから、あんな事になって責任を感じているんじゃないかって気になってた。ずっと前に進めないでいるんじゃないかってーーー」


ーーー私がそうだったように……


最後の部分は消え入りそうなくらい小さな声だった。


けれどこちらに目線を向けるとハッキリとした声で話を続けた。


「だからね、手紙書いたの。自分自身の為にも。あんな形にはなってしまったけど私、やっぱり夢を諦められないって。でもそれは私だけじゃない。君にも前に進んで欲しかった。」


「俺はとっくに吹っ切ってとっとと前に進んでたかもしれないのに?」


俺が今言える目一杯の強がりだ。


「うん、そうね。そうかもしれない。でもね、君はーーー、君の事だからきっと自分を責めてるだろうなって思ってたから。そういう人だもん君は。」


そう言うとまた彼女は視線を窓の外へと向けた。


「それでーーー結婚したって嘘を吐いたんだ。」


俺に踏ん切りつけさせる為に……。


「そう。未だ立ち止まってるかもしれない君に私が幸せな結婚をするんだって書く事で気持ちが軽くなればなって。私の事なんて気にせず夢に向かって進んでくれればなって。余計なお世話だよね。」


彼女は少し笑うとゆっくりこちらを見る。


「余計だなんて事ない。実はあの手紙、貰ってから一年くらい経って漸く封を開けたんだ。想像通り、俺はその場で立ち止まるどころか足踏みすら出来ないでいたんだ。だからあの時、手紙を貰ったのは良いきっかけになった。」


それは本心だ。


あの手紙が一つのきっかけになったのは確かだ。


彼女が夢を諦めないでいるという事、そして、側で力になって支えてくれる人がいるんだという事を知り、漸く俺も前に進もうと思えた。


それはあの頃の俺にとって有効な嘘となった。





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