青春と呼ぶには僕らはまだ青くない。
自宅の玄関前で立っていたナルは未だスマホを耳に当て俯いたままだ。


「ナル?」


明らかに様子がおかしいナルを前に心がざわつく。


「ごめん、やっぱり今日は帰る。無理に押しかけて悪かった。お家の方にも謝ってて。」


僕の言葉に


「違うの…」


とナル。


「違うって?」


「あのね、その…ね?」


どうも煮え切らない態度のナルに不安が過る。兄貴はあんな風に言ってたけどもう既に時は遅かったとか?


ナルの心は僕から離れてしまった?


「ごめん、ナル。兄貴と話したんだ。ナルの気持ち聞いたから。今まで苦しませてごめん。僕も自分の気持ちに素直になろうと勢いで来たけれど…だけどもう遅かったかな。ほんと、ごめん。今すぐナルの事、諦めるなんて出来ないけどーーー」


「えっ?」


それまで俯いていたナルが急に顔を上げた。


久しぶりに見るナルはやはり可愛くて。抱きしめたい衝動に駆られる。


「なっくん、諦めるって…どういうこと?」


泣きそうな顔でナルが聞く。


「えっ、だってさっきからずっと俯いたままだったし、僕が急に来たのも迷惑だったんだなって。ナルがまだ僕に気持ちがあるなんて都合良すぎる話だよね。」


「なっくん、違うよ。」


ナルが慌てて言う。


「違うの…来てもらって嬉しい…とても。だけどーー」


「だけど?」


「私、お風呂に入った後でスッピンだし髪もタオルでゴシゴシ拭いただけでボサボサだし…なっくんに見られるのが恥ずかしくてーーきゃっ」


僕は完全に墜ちた。


目の前でモジモジと恥ずかしそうに話す彼女に完全に墜ちた。


いや、ーーー違うな。


僕はもう彼女にとっくの昔から堕ちている。


その事を改めて気付かされたんだ。


その思いを噛み締め、華奢な彼女を思い切り抱きしめると確かにほのかに石鹸の香りがした。


僕の胸に完全に彼女をしまい込み、まだ少し濡れた髪に口付ける。


理性が飛びそうになるのを住宅街を抜けて走る車のお陰で何とか持ち堪える事が出来た。





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