青春と呼ぶには僕らはまだ青くない。
兄貴は工学部に所属していて、ああ見えて成績も良かったりする。


ひたすら書いて書いて記憶していく僕のやり方と違って兄貴は要点だけに目を通して頭に入れていく。


兄貴は昔からそうやって良い点を取ってきた。


本来、無駄な事はしない僕だけどその点だけは兄貴より無駄に足掻いている気がして、例え兄貴よりいい成績を取っても素直に喜べなかった。


兄貴の成績なら大手企業への就職も難しくは無かったはずなのに、最終的に落ち着いた先はそれほど大きくもない町工場だった。


けれど後になって聞いた話だけど、宇宙ロケットなんかに使うネジ作りにそのちっぽけな町工場の技術が活かされているらしい。


昔、宇宙飛行士になりたい夢を兄貴が持っていたという事を兄貴が働きだして直ぐに母さんから聞いた。


いつも適当に生きているようにしか見えない兄貴がそんなちゃんとした夢を持っていた事


そしてそれを兄貴からじゃなくて、母さんから聞いた事が僕の心の奥深くに影を落とした。


とは言え、実際、宇宙飛行士になりたいと言ってもそうは行かないので、兄貴は兄貴なりの形で夢を叶えようとしているのかもしれない。


そんな兄貴の選択に父さんは最早、無視を決め込み地元で広く権力を示すうちの名を汚すような事だけはするなと母さん経由で伝えた。


その話を僕にする母さんは兄貴の選択にどこか嬉しそうだった。


母さんはいつだって兄貴の選ぶものを好む。


毎年、兄貴が送る母の日のカーネーションではなくたった一本のガーベラにしても、今回の事にしても……。


そんな風に思う度、僕は自分がどうしようもなく価値のない人間に思えてくる。





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