恋の種をひとつぶ
変なテンションのわたしの声だけが、大ボリュームで、保健室にひびきわたった。
口元がひきつって、逃げ出したいような気持ちになったとき……
「……慣れてるから」
大熊くんが、無表情のまま、低い声でつぶやいた。
「〜えっ!?」
「柔道部でケガすること、あるし」
「あ、柔道部で……」
……け、ケンカで流血沙汰に慣れてるのかと思った。
ちらりと、目の前の大熊くんを見る。
大熊くんの瞳は、わたしの傷口に向けられていて。長いまつげがおりている。
止血に消毒に保護。
大熊くんは、慣れた手つきで、あっという間に手当てを終わらせた。
6時間目授業終了のチャイムは、まだ、鳴っていなかった。
「……戻る?体育館」