恋の種をひとつぶ


消毒物品を片づけてくれていた大熊くん。


かべにかかった時計を見て、わたしにそう尋ねる。



「う、ううん」



ふるふると、小さく首をふった。


だって今戻るのは、さすがに恥ずかしいから。



「もう少し、ここにいようかな……」

「……そうか」



かすれた声が、耳に届いた。



「あの…大熊くんは、戻ってくれて、いいよ……?」



こわごわそう言ったけれど、大熊くんは、出て行くそぶりを見せなかった。


出て行くどころか、なぜかもう一度、わたしの前に歩いてきて。



「っ!?」



ドスッ!と座り込んだものだから、わたしは思わず、変な声をあげそうになった。



「あー………」

「…!?……!?」

「……うん。あのさ」



びっくりマークとはてなマークを、交互に頭の上にうかべるわたしに、チラッと視線を送って。


< 27 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop