恋の種をひとつぶ
「先生、最近腰が悪くてなぁ」
「………」
「栗原お前、部活してないだろ?」
「…はい……」
「用事もないんだろ?ん?」
「わ、わかりました……」
そんなかんじでたたみかけられて、雑用を引き受けてしまったわたし。
結局、クラス全員分のノートをかかえて、教室に戻るはめになってしまった。
「はあ……」
歩く、廊下の上。
両腕にかかるずっしりした重みに、わたしは思わずため息をついた。
……昔からよく、人にものを頼まれる性分なんだよね。
日直、係の仕事、掃除当番、その他もろもろ。べつにいいけど。いいんだけど。
もっとはっきり、断れる人になりたいものだ。
がっくりと肩を下げたまま、2年A組の教室に踏み込む。
静かな放課後の空気に満たされた……そこには。
「だれもいない、か……」