恋の種をひとつぶ


「先生、最近腰が悪くてなぁ」

「………」

「栗原お前、部活してないだろ?」

「…はい……」

「用事もないんだろ?ん?」

「わ、わかりました……」



そんなかんじでたたみかけられて、雑用を引き受けてしまったわたし。


結局、クラス全員分のノートをかかえて、教室に戻るはめになってしまった。



「はあ……」



歩く、廊下の上。


両腕にかかるずっしりした重みに、わたしは思わずため息をついた。


……昔からよく、人にものを頼まれる性分なんだよね。


日直、係の仕事、掃除当番、その他もろもろ。べつにいいけど。いいんだけど。


もっとはっきり、断れる人になりたいものだ。


がっくりと肩を下げたまま、2年A組の教室に踏み込む。


静かな放課後の空気に満たされた……そこには。



「だれもいない、か……」



< 43 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop