恋の種をひとつぶ
ぽつりとつぶやいて、わたしはノートを、教卓の上におろした。
……いや、そりゃそうだよね。もう放課後なんだから。
顔を上げて、教室内を見回す。
何セットも並んでいる、同じ形の、机とイス。
きれいに列をつくっているようだけれど、こうして教卓からながめてみれば、少しずつ角度がずれているのがわかる。
目を細める。
わたしの頭のなかに、ぼんやりと、ある記憶がよみがえった。
ケータイを忘れてしまって、わたしがあわてて、教室にもどった日のことだ。
まだ、そんなに時間がたっていない、新鮮な記憶。
……あの日は、ここに、大熊くんがいた。
机につっぷして、熟睡してて。
見つけたときは、すごくびっくりしたなぁ。
起こすか起こすまいかまよって。
結局、声をかけて。