恋の種をひとつぶ
保健室で、二人きりになって。
てっきりシメあげられるものだと思ってたわたしは、すっごくおびえてて。
でも、予想に反して、大熊くんは手当てをしてくれて。
それで……思ってもみなかったセリフを、言ってくれたんだ。
『……昨日は、どーも』
……たぶん。
たぶんあのときが、わたしがはじめて、大熊くんの照れた顔をみた瞬間だった。
思い起こすと、また口元がゆるんでしまう。
……話す機会なんてないって、思ってた。
関わることなんてないって。
ものすごくこわくて、苦手なひとだって、思ってたはずのに……
「……っと。ノート、早く返さなきゃ」
……いけないいけない。ぼうっとしてしまっていた。
よし!と気合いを入れると、わたしは積み上げているノートの山から、一冊を手に取った。