恋の種をひとつぶ

*
*



何かをするときや、何かを言うとき。


わたしはいつも、いったん考えるくせがある。


それは本当にしても大丈夫なことかなって。


口にしてもいいことかなって。



……でも、このときばかりは、考えられなかった。


考えずに、階段を走り降り、上履きのまま、そとに飛び出していた。



向かったのは、南校舎側にある、柔道部の部室だった。


どうしても、大熊くんに会いたかった。


部室にいるかどうかなんて、わからない。


もう格技場へ行って、練習を始めているかもしれない時間だ。それでも、走らずにはいられなかった。


息を切らしながら、部室の近くまでたどりつく。


ちょうど足を止めたタイミングで、部室から大熊くんが出てきたとき……



「っ、」



わたしの胸は、ぶるりとふるえた。


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