恋の種をひとつぶ
「~大熊くんっ!!」
せっぱつまった声で、呼び止めていた。
わたしの声に反応して、大熊くんが、のっそりと顔を上げた。
大熊くんは、柔道着姿だった。
腰に光る黒帯。わたしの姿を認めて、大熊くんのおおきな瞳が、よりいっそう開かれる。
「え……栗原?」
大熊くんは、とてもおどろいた表情をした。
わたしもきっと、後から振り返ったら、自分の行動にびっくりすると思う。
でも今は。
今は、そんなのを全部ふっとばすドキドキが、胸にあって。
「あのっ、これ……っ!!」
わたしはそう言うと、手にしていた一冊のノートを、大熊くんにむかって差し出した。
大熊くんの、数学のノートだ。
さっき偶然開いてしまったページを、もう一度、大熊くんの前で開く。