恋の種をひとつぶ
「……まだ言うつもり、なかったんだよ」
息はまだ、はずんでいる。
肩は軽く、上下している。
秋の風が、吹きつける。
なびくわたしの前髪と、動かない、大熊くんのツンツン髪。
降ってくるのは、太陽のひかり。
大熊くんの黒髪が、きらきらしている。
……大熊くん自体が、きらきらして見える。
「……あのさ、俺………」
心臓が、ぎゅうっとなる。
……だれかに恋をすること。
わたしはずっと、むずかしいものだと思ってた。
自分には起こりえないものだって。
好きな人なんてできないって、決め込んでいた。
にがて?こわい?
……それがひっくりかえるのは、こんなにも、かんたんだったのに。