僕と舞ちゃん
その日家に帰ってからも僕はその事ばかりを考えていた。小さい頃にお父さんが死んで、それはそれで寂しく無かったと言えば嘘になる、友達には当たり前のように両親が揃っていて、正直それが羨ましかった。でも僕には舞ちゃんがずっと傍に居た、だから寂しいとは口が裂けても言えなかったし、一度も言った事も無い。
いっそ舞ちゃんが帰って来たらその事を聞いてみようかと思ったが、そんな話をしたくも無かったし、正直聞くのが怖かった。
それは舞ちゃんが誰かに盗られるといったそんな気持ちでは無く、舞ちゃんはずっとお父さんだけが好きだといった気持ちが強かった。
あれだけお父さんの事が好きだと言ってた舞ちゃんが他の男に想いを寄せる、そんな事を僕は絶対に認めたく無かった。第一それじゃあ先に死んだお父さんが可哀想だ。
「ただいま」
そんな矢先舞ちゃんが仕事から帰って来た。
「おかえり、今日は早かったね」
時計を見ると八時少し前であった。
「まあね、ここのところ忙しかったからたまには早く帰らないと体がもたないわ」
「確かにここのところ忙しかったみたいだね」
本当に仕事が忙しかったのか聞きたかった僕だったがやはりそれ以上聞けなかった。
「今日和美ちゃんは?」
「何言ってるんだよ、そんなに毎日毎日来る訳がないだろ?」
「ふ~ん、そうなの?」
そう言った舞ちゃんは意味深に笑った。
「何だよ、その言い方。何か引っ掛かるじゃん!」
「別に、あなたがそう思うのは気持ちの中に何かやましい気持ちがあるからじゃないの?」
「まったく良く言うよ」
そう言われた僕は、舞ちゃんが実は和美と両想いになった事を知っているのではないかと思ってしまった。
「早くご飯食べたら?俺はそろそろ期末試験の勉強をしないとならないからね」
と言い残し部屋に入ってしまった。結局早く帰ってきた舞ちゃんに僕は何も聞けなかった。
それから舞ちゃんは暫く早く帰ってくるようになった。お蔭で二人で、和美が居る時は僕が和美に家でご飯を食べさせて貰ってるという事で三人で夕飯を食べた。
内心まさかとは思ったが和美が僕達の事を舞ちゃんに言うのではないか、僕達の事を見て舞ちゃんが何かを感付くのでは無いかと少し心配していた。だからご飯も何処に入ったのか判らなかった。
< 13 / 19 >

この作品をシェア

pagetop