僕と舞ちゃん
そんなある日、やはり和美と三人で夕飯を食べている時に和美がとんでも無い事を舞ちゃんに言い出した。
「そういえばおばさん、最近仕事に行く時にバッチリお化粧をして香水なんかも付けてどうしたんですか?もしかして誰か好きな人でも出来たりして」
それを聞いた僕は思わず茶碗を落としそうになった。そして直ぐ様舞ちゃんの表情を見た。舞ちゃんはどういう顔をするのだろう?それを見るのが怖かった。
「お化粧か、流石は女の子ね。最近歳だから一生懸命塗っているのよ、ふふふ」
「そんな事無いですよ。おばさんてすっごく綺麗だもん、慎ちゃんのお母さんだから小さい頃からおばさんて呼んでるけど初めて会ったらお姉さんって感じだもん」
「あらあらそれは有難う。和美ちゃんだって最近はぐっと女の子っぽくなって綺麗よ。まだ若いからお化粧なんかしなくても綺麗だしお肌に張りがあって羨ましいわ」
「そんな事ないですよ」
僕はそんな二人の会話に素知らぬ振りをしていたものの耳だけは神経を尖らせ聞いていた。
「でも恋でもしてるのか、それとも誰かに告白でもされたのかと思っちゃいました」
「ははは、まさか!こんなおばさん口説く物好きな男性は居ないわよ」
そう言った時僕の方をチラッと見た舞ちゃんの視線を感じた僕であったが、それに気付かないように僕はテレビの方を向いたままだった。
「そんな事ないですよ、昔から友達の間でも慎ちゃんのお母さんは綺麗だって評判だし、それにまだまだ若いから勿体ないですよ」
「そうかな?和美ちゃんから言われたらおばさん自信持っちゃうかも、じゃあ青春よ再びって感じでもう一回恋愛しちゃおうかな?どう思う?慎太郎」
「え、別にいいんじゃない?」
その時僕はつい心にも無い事を言ってしまった。
「あらいいの?そんな事になったらあなた泣くんじゃない?」
「何で俺が泣くのさ、大体俺はもう子供じゃないんだし」
「ふ~ん、随分と立派になったもんだ。あの泣き虫で小さかったあんたがねえ」
そう言った舞ちゃんの嬉しそうで寂しそうな顔を僕は生涯忘れないような気がした。

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