世界で一番ソラに恋した。
流石にもう、佐崎くんは居ないだろうって思ってた。
茜色だった空に、マーブル状に夜が混じり始めて、私は息を飲む。
そんな中、暗い階段を上り屋上の扉までたどり着き、差しこんだままにしていた鍵を取ろうとした。
――ない。
刺していたはずの鍵が抜かれている。
奈菜のバイト先でスタンプが溜まって貰った、カレーのストラップをつけていた鍵がない。
「嘘」
屋上のドアノブを回すと、――ドアは開いていて。
冷たい風に、制服がなびく音がしている。
「佐崎くん?」
給水タンクの裏に、まだ黒い影が見えた。
あの場所に、大きな身体の佐崎君が隠れるように座っていた。
「雨笠さん、俺さ」
「う、うん!?」
「自分の名字が、大嫌いなんだ」
此方を向くことなく、佐崎君は静かに言う。
感情が乗っていない言葉は、ちょっと淡々としていて、気持ちが読めずに不気味だった。