世界で一番ソラに恋した。
追いかけて来ようとするソラ君の手に、力がこもっていなかった。

振り切るように階段を下りて、自転車を飛ばす。

追いかけて欲しいと思った癖に、恥ずかしくて逃げ出してしまいたいと、自転車で駆け抜ける矛盾。

キスをされて嬉しいのに、嘘の上からされたキスの様で嬉しくなかった矛盾。


全部、全部、ぐちゃぐちゃで。

気づけば家じゃなくて、奈菜の家へ向かっていた。

テスト期間は流石にバイトは入ってなかった奈菜は、急いで家から出てきてくれた。


「あゆ?」

部屋着のワンピースに、前髪がちょんまげみたいに適当に結ばれていて、眼鏡をして飛び出してくれた奈菜は、急いできてくれたんだって分かった。

だから、嬉しい。


「どうしたの?」

泣いている私の顔を見て、服の袖で拭いてくれた。

その優しささえ、今は私の心を抉る。

「どうしよう。絶対、絶対、ソラ君に自分勝手だって嫌われた」
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