マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
「そしたら音楽監督が、『誰にだっていくつ
もの初めてがある。君はこの初めてを逃すと
必ず後悔するよ。指揮者として一つ階段を登
ってみたらどうだ。』って。」(仏)


…マエストロの“初めて”なんて別にどうって事ないはずだ。あれだけの才能があるなら。


初めて聴いたマエストロのピアノはとてもキラキラした音だった。
音の粒が見えるかの様に。


私が同じピアノで弾いてもあんな音出せない。
こういうのはもう、人の顔が一人一人違うみたいに、生まれつきのものなんじゃないだろうか


…へこむなぁ。
ワインを流し込む。
そして酔っぱらいが出来上がった。





「奏ちゃん!」

テーブルに突っ伏す様にして寝ていた私を起こしたのは、マエストロだった。


「…はれ?こころこ?シモーヌさん家じゃらい
の?」(酔っぱらいの仏語)

「迎えに来たよ。帰ろう。」


「王子様は白馬じゃなくて、タクシーでお迎
えよ。」(仏)

シモーヌさんが連絡してくれたようだ。
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