マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
リヨン放送フイルハーモーニー管弦楽団が拠点としているホールは、意外にも新しかった。


その事務局に挨拶がてら、顔を出してみたのだが、そこで交わされる梁瀬さんの流暢なフランス語にイラっとさせられた。


姉が住んでるスイスもフランス語が使われているが、遊びに行くときは姉の語学力をあてにしていて、習得しようという気すら、芽生えたことがなかったのだ。


…で。猛烈に今、後悔している。
私の頭上を行き交うフランス語は、内容を理解するなんて事は出来なくても、発音だけでも追えないかと頑張ってみたが、付け焼き刃の勉強程度では次第に頭痛がしてきた。


早い。上手い。
あともうひとつで牛丼屋のキャッチフレーズになるぐらいに、梁瀬さんのフランス語は、完璧だった。


……待てよ。
私の語学力で、梁瀬さんの売り込みなんてどうやって出来るんだ。
しかも、もしその売り込みが上手くいって、常任指揮者になれたとしたら、マネージャーの私も、これからずっとフランス語と付き合っていかなければならないという事だ。
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