マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と

１８０㎝はあるであろうマエストロの声が頭上から降ってきた。
最後の方はもう声になってなかった。


この人は。
私が断ったらどうするつもりだったんだろ。
そういう事を全く考えないんだ。
仕事がやりにくくなるとか。


ちょっとの沈黙も堪えるらしく、マエストロは痺れを切らして言う。

「…奏ちゃん…。」


理由の解らない涙が込み上げてきた。
私が欲しいものはこれじゃない。


「…返事…。何か言ってよ…。」


でもそれは、マエストロから与えられるのではなく、自分の力で手に入れなければならないものだ。


私はこの人が憎いのか、尊敬しているのか、何なのか解らない。
もうどうでもいい。何が正しくて、何が間違っているのか。