マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
テンポはアレグロに戻る。
グリッサンド。
高難度だが、難なく弾きこなす。
物凄いスピードでも、音の形が崩れることはない。


「……う…っ。」

涙を堪えても、声までは我慢出来なかった。
慌てて両手でそれを塞ぐ。


ピアノの高音の音域に耳がキンキンくる。
火花が散る。


居たたまれない思いを、何処にやれば良いか分からず、口に当てた手を握りしめる事しか出来ない。

ショックを受けて堪えきれない。


私がこの曲を演奏出来るとしたら、こういう風に弾きたいと思っていた事、全部やられてしまっていた。


第2楽章第4変奏の、この曲で最も弾き手の個性を出せる所や、第3楽章のコーダの部分。

それだけでなく第3楽章、鍵盤の隣り合った所を押さえて、重音の音階をかなりのテンポで弾く所だって。

気ばかりはやって、上手く弾きこなせない私とは大違いだ。
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