マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
保護者まがいのマネージャーの仕事は、はっきり言って、辟易する所があった。
が、しかしこれ迄この仕事をしていなければ、知り合えなかったであろう人、体験する事がでなかったであろう出来事、多くの事が勉強になったと思う。

そんな中、マエストロに隠れて次の身の振り方を考えている自分が、何だかクーデターを企んでいるような気もしてきた。

思わず、口の端で笑う。


「ーーー!」


……微かに女性の声がした。

タブレットから顔を上げ、辺りをぼんやりと眺める。
叫び声とも、泣き声とも、つかない声だった。

………気のせいか。
再び、画面に目線を落とす。

……じゃない!気のせいじゃない!
女性の泣き声と、バタバタという足音とが近づいて来る様な気配が感じ取れた。

通路に置かれた椅子から立ち上がり、ホール2階正面のホワイエまで足を運んでみた。
そこには私と同様、声の元を辿って何人かの人が出てきていた。

ホール裏側にある楽屋付近から、女性が泣き声と共に、えらい勢いでホワイエを突っ切る様にして走り抜けていった。
そしてその後を追いかけるようにして走ってきたのは、マエストロだった。

は?

ポカン。

未だ着替えも済ませてなかったらしく、燕尾服のままだった。


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