マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
曲の中には、それはそれはため息の出るような美しい旋律の後に、顔を背けたくなるようなおぞましい旋律が出て来るものもある。

その表現は半端ない。
ざらりとした手触りと、生温い温度。鼻を突く悪臭さえ感じられるほどに。

生と死と。
楽譜と対峙しながらも、人間が生きていく上での、永遠のテーマに否が応でも向き合わなければならない。
もうコレは一つの禅問答の世界だ。
音楽の糸を紡げば紡ぐほど、その糸に絡め取られてしまう気がしてくる。


マーラーは書き込みも細かい。
メトロノームのテンポ指示は書いてないのに、何故か弦楽器の息継ぎの場所が書いてあったりする。


第4楽章コーダで、7人のホルン奏者がおもむろに立ち上がって演奏を続ける。(場合によってはそれ以上の人数)その姿は圧巻だ。

これは指揮者の指示ではなく、マーラーが楽譜に指示してあるのだ。

『ホルンが全てを掻き消してしまうほどの』

僕も初めてコンサートでこの曲を聴いた時は、
何だか中高生の吹奏楽部の定期演奏会のノリだな、と思った位だ。



もっとだ。もっと来い。
フイナーレに向けて僕は楽団員を煽る。

…あ、君はもうちょっと落ち着いて良いよ。

シンバル担当の若いメンバーは必死の形相だった。


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