マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
彼女の表情は、予想できたものだった。
眉間に皺を寄せ、唇をわななかせていたが、いよいよ堪えきれずに、顔をうつむかせた。
そして嗚咽が始まる。

僕だって、良心の呵責が痛まないわけがない。

「どうしていつもいつもこうなの……!
好きになった人には振り向いて貰えないのに
近づいて来る男は、ロクでもないのばっかり
!」 (独)

「……アーデル、」

その次が続かない。


以前話してた、付き合ってた彼氏の事を言ってるのだろうか。仕事に対して理解を示してくれない人と、仕事に対して言い争いばっかりになってしまったっていう人と……。

「……もう嫌!!
仕事絡みでの恋愛のイザコザなんてもう沢山
よ!辞める……!辞めるわ。こんな仕事なんて
ヴァイオリンなんて、もう辞める!」(独)

「ええっ?!ちょっと、アーデル!」(独)

そのまま出ていこうとしたアーデルを引き留める。

「その楽器もあげるわ。 売れば結構な値段に
なるはずよ。彼女とお幸せに!」(独)

「……っはあ?っちょ、ちょ、ちょっと!
アーデル!」(独)

バタンと勢い良く閉められたドアの向こうで、
泣き叫ぶ声が聴こえた。


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