マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
革靴で全力疾走をするという甲斐もあってか、
前を走っていたアーデルの後ろ姿は、段々とはっきりとしたものになってきていた。

信号が青に変わり、人の波に逆らうようにして進むため、アーデルの動きも鈍くなる。
チャンスだ。

ハアハアと息切れする呼吸を圧して、更にスピードを上げ………、

ようとした横を、更に上を行くＢダッシュで駆け抜けていく人物の姿が見えた。

その人物は僕のマネージャーを務め、恋人としてお付き合いをしている大石奏嬢だった。


「待って！待って下さい！！」

「奏ちゃん？！」

何で奏ちゃんが？
しかも僕じゃなくて、アーデルを追いかけている。
接点なんてあったっけとか、僕がホールを飛び出す様子を見て、何事かあったのかとマネージャーとして追いかけて来てくれたのかとか、頭の中で色々と浮かんではきたが、分からない。


「あーっ！マエストロ！あの方なんてお名前
でしたっけ？」

知らないで追いかけてるのかよ！！

僕だと気づいたのか、奏ちゃんは訊ねてきた。
何だかますます分からない。

「アーデルだよ。アーデルハイト。何で奏ち
ゃんがここに…「アーデルさんっ！」

奏ちゃんは人を掻き分けるようにして、アーデルの肩に手を伸ばした。




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