マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
って、言うか。
これなに？アンコール？
普通、ソリストがアンコールに応えて演奏するのはあるけれど。

今から舞台で何が行われようとしているのか、
先が読めないまま進められていく。

するとマエストロの代わりにボナリーさんが、指揮台に立つ。
お客さんもくすくす笑い出す。
もっともらしい顔つきを作り、大袈裟な身振りで指揮を始めた。
あはは。
面白い！何？サプライズ？誰かの誕生日とか？

だが、始まった曲は
『ハッピーバースデートゥーユー』ではなく、

エリック・サティ作曲
『ジュ・トゥ・ヴ』だった。


曖昧で短い序奏からマエストロの伸びやかなヴァイオリンの音が響いた。
ピアノで聴くことの多い曲だけに、違う印象を受ける。

マエストロは指揮者の左隣、ソリストの位置に立ち演奏している。
ピアノを奏でる時とはまた違った種類の艶のある音色を響かせ、手足の長さがまたそれを引き立てている。華がある、とはこの為に在る言葉の様にさえ思えてくる。

……ホント、ムカつく……。

何でこうもさらりとやりこなしてしまうのだろう。
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