マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
マエストロがあまりにも凄い人だから、私があら探ししてるのもあるけど、いずれにせよ残念なイケメンの部類には入ってくる。


だからやむなく、私の様なマネージャーがいなければならないのだが、本来こういう事は奥様とか、お弟子さんがするような事らしい。


残念な事にマエストロは独身だし、弟子なんて
つくようなベテランでもない。


ちなみにベテランでもないのにマエストロ(巨匠)と呼んでいるのは、私の嫌がらせだ。
最初の頃は「簗瀬さん」と、無難なものだったが、そのうちに、


「何だかよそよそしいなぁ。悠平さんって呼んでみてよ。」


と机の上でのの字を書きながら恥ずかしそうに言う姿にげんなりときたので、それからは、
「先生」とか「マエストロ」と呼ぶことにしている。


そのたびに「もー!」と言って、拗ねてくるが
一切無視している。自分が三十路半ばのオッサンだということを自覚して欲しい。


やれ箸の持ち方がおかしいだの、ハッピーターンをボロボロこぼす姿はアンハッピーな気持ちにさせるだの、そう言う取るに足らない事で優越感を得ないとマエストロと仕事をしていく事は出来なかった。
小さい頃から音楽をやってやってきた私にとっては。


それでも私がマエストロより出来るつもりでいたピアノで、足下を崩される事になるなんて思ってもみなかった。
< 4 / 288 >

この作品をシェア

pagetop