マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
バスドラムのおどろおどろしい音。
2台のティンパニは、手を交差させ、せわしなく動き回る。
そして小刻みに弓を動かすヴァイオリンの群れ


何だか音がうねり、渋滞でも起こしているかの様に。


小さい子どもに、やけくそなの?と聞かれたら
何だか否定出来ない。


でもそこには、情熱と美しさがあるんだ。


上まで高く上げていた手を一気に振り下ろす。


ーーーーーン!


次の瞬間には、拍手の波に包まれる。
何事にも代え難い瞬間。
背負っていたものを全て下ろす事が出来る。


楽団員に合図を出し、立ち上がらせる。
コンサートマスターの五十嵐さんに笑顔で握手
する。


鳴り止まない拍手に若干の気恥ずかしさを覚えながらも、舞台袖へとはける。


奏ちゃんは僕を確認すると、ペットボトルの水を手渡し、タオルを首に掛けてくれる。


この人が僕の愛しいひと。
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