元通りになんてできない
「何言ってるの?」
「薫さん、貴女の事が好きなんです、ずっと。ずっとなんです。
初めて給湯室で会った時から」
「ちょっと待って!」
「いや、待ちません。俺の話を聞いてください。
俺が前の結婚を決めたのは、貴女が結婚していて子供が居ると言ったからです。…貴女を諦めようとしたからです。
俺は一目惚れした日にあっという間に失恋したんです。貴女とこの先が無いのなら、誰と結婚しても同じだと思いました。
でも、そんな結婚は相手に失礼だとか、…とにかく悩みました。気持ちは一生押し込める事が出来るだろうかとか。
でも、その結婚は結婚にはならなかった。結果論ですけど」
「そう。そうならなければ、幸元君は今は立派な既婚者よ?人の夫なのよ」
「解ってます。良くない考えで迷いがあるなら結婚を決めるもんじゃない。するもんじゃないって。それは解ってます。
悩んだ原因、貴女だ、薫さん。確かに娘さんは居るが、御主人はもう亡くなられていたじゃないですか…。俺は、知らなかったから…。
俺は知里ちゃんが許してくれるなら、知里ちゃんの父親になりたいと本気で思っていました。
まさか、知里ちゃんが跡を継ぐ為に、御主人の家に引き取られるとは思ってもいませんでしたが。
貴女の作ってくれた弁当は美味しかった。
動物園で御主人の事を聞いた時、不謹慎にも、三人で居られる時間が家族のようで嬉しかった。
貴女は…、俺が知里ちゃんを肩車したりおんぶしたりするのを見て…、御主人が生きていたらきっとこんな風にと…、そう思ったんですよね?あの時」