元通りになんてできない
「それとも、貴女は、結婚は縛りがないと出来ない、そう考える人ですか?
相手を信じられませんか?
そんなモノ、あっても無くても、貴女は御主人を信じて結婚したはずだ。そうでしょ?」
「それは…信君は信じていたし、大好きで掛け替えのない人…」
…。
「…俺の事は?」
「え?」
「…嫌いですか?」
「その聞き方は…」
「嫌いですか?」
「嫌いとかじゃない…」
「信じられませんか?」
首を横に振る。
「そんな事は無いけど…でもね…」
「ふぅ…、だったら何も問題無い。急に好きになってくださいなんて言いません。
寧ろ、こんな話をして、直ぐ好きだと貴女に承諾されたら、その方が俺は困惑します。
そんなに簡単に切り替えられるはずは無いからです。貴女はそんな人じゃない。大好きな人は俺じゃない。それだからいいんです。
このままでいいんです。俺は貴女が好き。貴女は俺を嫌いじゃない。
それで充分じゃないですか?」
「でもね…」
「まだ何かありますか?」
「…」
「無いですね?じゃあ、行きますよ?俺の実家」
「えっ、ちょっと。それは、待って」
「大丈夫。今はまだ、好きな人だと紹介するだけです」
「でも、そんな事…それだって」
「今はそれだけでいいんです」
手を引いて会計に向かった。
「お願いします」
「素敵です…。素敵なお話でした…」
「え?」
何故だか店員さんは目も鼻も赤くしてウルウルしていた。
「勝手にお二人の会話を聞いて…、勝手に感動してしまって、…すみません。でも、素敵なプロポーズでした。
あの、彼女さん?こんな素敵な人、居ないと思いますよ?
ごめんなさい、余計な事を。
結婚出来る事、祈ってます。頑張ってください」
「…有難う」