元通りになんてできない


「彼氏だって。薫さんの」

「良かったわね」

「あ…どうしたんですか?」

「別に?」

俺は屈み込み薫さんの顔色を窺った。顔を背けられた。

「あれ?…。もしかして、ヤキモチ妬いてくれてたりして?」

「違いますー」

「あ…まあ、いいです。帰りましょう?」

「え?買わないの?」

「だって“彼女"がご機嫌斜めなのに、いいモノ買えると思います?」

「…」

「さあ、デートですよ。スイーツでも食べに行きましょう」

俺は店員さんに、また、と声を掛け、薫さんの手を引きショップを出た。

「また、ですって…」

「っ、あれは言葉のあやです。挨拶ですから、あれ以外言いようが無いですよ。
なんだか…可愛らしいですね。ヤキモチ、また妬いてくれたんですか?」

「…違います。勘違いしないで…」


「薫さん、よく、顔を見せてください…」

「…嫌」

「…見せてください」

言い終わると同時に唇がそっと触れていた。
呆気に取られる私に、可愛かったから、と言い放つと、何事も無かったように、また手を引き、行きますよ、と歩き出した。
何が、可愛かったからよ。こんな…、人が沢山居るところで…、…子供みたいな事を。
…ヤキモチなんか妬いてない。本当だから。
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