元通りになんてできない


ケーキセットを注文してコーヒーを飲んでいた。

…大人といえども対処できない事もある。

さっきの…不意にあんな事をして…、人目のあるところでドキドキさせるなんてズルイじゃないか…。
年上でも、おばさんでも、いくつになっても女なんだから…。ああいう場でされたら、騒ぎ立てる恥ずかしさの方をとって、文句を言いたくても大人しく引き下がってしまう。


無花果のタルトを食べながら、上手くフォークにのせられなくなっているのに気がついた。
思ってる以上に動揺は長引いているようだ。…はぁ。

「薫さん?」

「は、はい。何?」

クスクス。

「何でもないです。タルト、俺のも食べてくれますか?これも好きでしょ?」

「はい、えっ」

クスクス。

「はい、好きでしょ?栗のタルトも」

「あ、うん。いいの?」

「はい、どうぞ」

食べてはいたけど、甘みも解らないほど、ポーッとなっていた。


「そろそろ出ましょうか?」

「…うん」

スイーツを食べた後も、自然と手を繋ぐ猛君の手を握り、私達はお店を見て回った。
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