元通りになんてできない
夕日が山の稜線に隠れる頃、私達は猛君の家に帰り着いた。
「ただいま戻りました」
猛君に手を引かれる格好で帰って来た私達を見て、お父さんもお母さんも嬉しそうに頷いていた。
もしかして…、こんな感じで帰って来ることを見込んで送り出されたのかも…。流石、年長者。ベテランの夫婦だ。
でも別に、劇的に期待するような進展は特にはないですから。これは、猛君主導の行動ですから。
猛君のお母さんのご飯は美味しかった。
味は違っても、家庭の味ってこうだったと、昔の母の料理を思い出していた。家庭の味は、なんだかほっとして温かいという事だ。
せめて後片付けはと、手伝わせてもらった。
エプロンを貸してもらい、二人並んで洗い物をした。
「いいもんだな、猛」
「あ?あっ。あぁ」
「前回はこんな光景を見る間もなかった」
「…」
お茶を啜りながら、親子でそんな事を言っていたらしい。
片付けが終わった頃、猛君が使っていた部屋に連れて行かれた。
使わなくなった今も、綺麗に掃除されていて、今も学生の猛君が居るんじゃないかと思うくらい整然としていた。