元通りになんてできない


眠れないに決まってる。眠ろうとするから余計眠れない。地獄だよな、この状態は。
母さん、恨むからな…。
なんか魂胆が見え見えなのにも腹が立つ。

俺は風呂上がりの薫さんを見てから、悶々としていた。
うっすらとした明るさの中、頬をほんのり上気させた薫さんが部屋に入って来た。
…何だろう、同じモノのはずなのに……良い香りがした。
寝ていた方がいいだろうと思っていたのに、まさかの声掛けに、寝たふりをするのも忘れ、うっかり返事をしてしまった。

はぁ、本当、迂闊だった…。
布団に入る時にも、薫さんの方から微かに良い香りが漂って来るし…。

音をたてないように何度も静かに寝返りを打ちながら、頭の中から薫さんを消そうとした。
消そうとすれば、するほど意識して余計消せなかった。
はぁ、眠れない。まだ眠れない。
いや、眠れなくてもいいんだ。それは、いいんだ、別に。ただの睡眠不足になるだけだから。
ヤバいんだ。ヤバいんだよなぁ…。
健全な男子にとって、この状況は残酷だろう。
目茶苦茶好きな人と、一緒に居るんだぞ…。


…眠れない。
薫さんも起きてるかも知れない。
声掛けて、話でもしてみるかな…。
そう思って、起きてますか、と、声を掛けた訳なんだけど。
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