元通りになんてできない
俺は夜、今日の話を薫さんにした。
「そう。よく見てるのね、部下の事。狸オヤジを装ってる方が色々と見えて都合がいいのかも知れない。いいとこあるのね」
「薫さん、一緒に暮らしませんか?」
……幸元君、本当に気が早い。気持ちは解るけど。逸り過ぎでは…。
「…うん、その話だけど、私達の関係性だと、例えば、一緒に暮らし始めたら、もうそれは結婚?それとも、まだ今は同棲というか、お試し期間になるの?」
「それは俺と薫さんの気持ちで違います。
そういう風に聞くくらいだから、薫さんはまだ結婚したくないという事でしょ?
だったら、お試し期間、同棲でいいんじゃないですか?」
お試し期間…。
「いいの?それで?」
「はい。俺は、こだわりません。一緒に居られるなら。なんせ、ぞっこんですから、薫さんに。少しでも早く、一緒に居たいです」
…。
「…猛君。紙の区切りが無いからこそ言うのよ?大事なことだから。お願い、よく考えて」
「よく考えてます」
「だから、それが…」
一緒には、まだ暮らさなくていいんじゃないの…。
「他の誰かでは駄目なんです。誰かに取られたらどうするんですか。
貴女の事はずっと見てきましたから、俺なりに解っているつもりです。
いつだって正直に俺に接してくれます。誰よりも貴女がいいんです。
強くて、…弱い、貴女が好きなんです。…何だか、上手くビシッと言えなくてすみません。でも。
お願いします。一緒に暮らしましょう?
結婚か同棲かは、薫さんの心に任せます。
大事な話ですが、深刻になり過ぎないでください」