元通りになんてできない


「…猛君、ごめんね。やっぱりまだ一緒には暮らせない」

「薫さん…どうして」

「違う、誤解しないで、違うの。
あのね、私の我が儘なの。
もう少し、この感じのままでいたいの。時々お互いの部屋を行き来して、一緒にご飯作って食べたり、お泊りしたり。待ち合わせして出掛けたり。…そういうの、まだしたいの。
……一緒に暮らすのは…嫌とかじゃないの。でも一緒に居たら、ずっと一緒が当たり前になるでしょ?慣れ合ってしまうのも早いと思うの。それもいいんだけど…。子供の事や、……信君の事。私、まだどこかで…気持ちだって揺らぐ……。
私はまだ…、猛君と始めたばかりだから。まだドキドキもしていたいの。
我が儘かな……いい歳して」

「薫さん…」

「駄目?こういうの駄目かな…」

「駄目じゃないです。はぁ」

ギューッと抱きしめられた。

「猛君…。猛君は一緒に暮らしたいんでしょ?結婚か同棲かにこだわらなくても」

「そうです。そうですけど、いいんです。駄目じゃない。それより薫さんの気持ちが聞けた方が嬉しいです。大丈夫、俺は会いたい時は来ますし、…お泊まりもしますから。
薫さんが駄目だって行っても来ますから。何も問題ないです」

…話した事が、意味が無かったような。
でも、気持ちの問題なのよね。会うのと、始めから一緒に居るのとは違うから。

「じゃあ、暫くはこのままでもいい?」

猛君はチュッというリップ音をたて口づけると、勿論です、と満面の笑みを返してきた。
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