元通りになんてできない
「これからはどうする?障害になるものはないってことだから。
結婚は考えているのか?結婚したら辞めるのか?」
「え、まだ……、結婚の話も…。そういう…具体的なところまでは進んでいません。
ですから、まだ先の事は解りません、まだそういう段階ですから」
「そうなのか…。
俺は仕事、続けて欲しいと思ってる。いや、辞めて貰っては困るんだ。君に居なくなられては困るんだ」
「あ……高野部長…、勿体ないです、そんなお言葉。私のような者に」
「…幸元が羨ましい」
「え」
「あいつの結婚の話、前のな。割と細かく聞いたんだ。
まあ、酷い話だとは思う。だけど、投げやりになってたとはいえ、見抜け無かったあいつも悪いと言えば悪い。
幸元が言うんだ、上司にヌケヌケとな。まあ、俺が言った事に肯定したんだが。
鷹山さんには、弱音を吐ける、とね。
男は弱いくせに、外では強がって虚勢を張らなければいけない、仕事だからな…。
疲れるんだ。安らぎが欲しいものなんだ。
だから幸元が羨ましい。
俺の家庭の様子、幸元は知ってる。
鷹山君、俺が嫁さんに欲しいくらいだ。…なんてな…」
「部長…」
「何の話だったかな…」
部長は照れ隠しに頭を掻く。
「鷹山君、とにかく結婚がはっきりするまでは、今まで通り頼むよ。扶養の事は修正を入れるから。それで気が済むかな?
話は終わりだ。さあて、戻ろうか」
「部長、有難うございました」
「…あー、ちょっと待ってくれ」
「はい?」
「んん。別に、惑わせるつもりで言ってるんじゃないんだ…」
「は、い?」
「その…、俺も離婚が成立して、…独身になったんだ」
「は、あ、…は、い」
「なにも、仕事上でだけ、居てくれないと困ると思ってる訳ではないんだ。………幸元が居ると解ったから…、その、悩んだんだが…、その…、俺は鷹山君の事が好きだという事だ。それだけだ。それを言っておきたかった」
「はあ、…ぇええ?!」
「…フ。まあ、いいさ…。帰るぞ」
「は、はい…」
高野部長のバリトンヴォイスがやけに耳に残った。