元通りになんてできない


「あの、もう少しお時間大丈夫ですか?」

「俺は大丈夫だ。なんせ、フリーだからな」

「すみません、有難うございます。私の娘が、夫の実家に引き取られた話、しましたよね?」

「ん、聞いたな」

「私はずっと、夫の籍のままなんです。娘が大きくなる迄に、祖父母に何かあったらという心配から、そうしてくれと頼まれて、そのままなんです」

「…そうか、それは知らなかった。そこはプライベートな事だからな」

「なんだかグルグルするみたいな話ですが。幸元君は、嘘で事実婚をしたことにしてました。
それが、次、もし私と結婚したとしたら…、正真正銘、本当の事実婚になります。そのまま…、今はそんな風にしか出来ないので」

「…そうだな」

「気持ちの問題だけなんですよね。婚姻届という紙の縛りがないから。
だったら、この子、私が一人で育てて…、私の子なんです。すいません。上手く言えません。
子供が生まれて、考え方によっては…、幸元君は…可愛いなって、一日友人が面倒をみてくれるのと変わらない、それと同じ事のような気もするんです。
次の日も、また次の日も。その繰り返しのように思えて…。
でも、関係性は夫婦なんだと思っていたら、夫婦なんだと思うし。
…私が籍だとか事実婚だとか、一番気にしているのかも知れないです。
気にならない振りをして…」

「今までとはまた違ってくる。子供が出来たんだ。
誰だって、何処か、不安になるのは当たり前だ。
こんな時だ。あまり難しい事を長く考えない方がいい。まだ危ない時期だろ?」
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