元通りになんてできない


「聞いてもいいか?
あぁ、ずるい聞き方だな。ハハハ。こう言うと、質問に答えざるを得なくなってしまうな」

「何でしょうか」

「亡くなられたご主人の事は…いや、止めよう。愚問だ。解りきってる。今のは無しだ」

「…構いませんよ、何でしょうか」

「…今はどんな気持ちでいるのか聞こうとしてしまった。すまない。聞くことじゃ無いのに。そういう思い、中々割り切れるものではないだろうと思ってな。
頑張って仕事して、娘さんと暮らしていた事を考えたら、ふと過ぎってしまった。すまない」

「大丈夫です。
最初は受け入れられなくて…、納得出来なくて…、ただ放心状態でした。でも、あの子が居てくれましたから、生きて来られました。一人では無理でした。
…夫の事は忘れられません。歳をとって、自然に死が来るまで一緒にいられると思ってました。突然いなくなるなんて…。今は、…今も一緒に…、居てくれてる気がします。
居ないけど居る人です。その思いは幸元君にも言ってます。
ずっと私のここに。
今は知里の側に居てくれてるといいのですが…。
…すみません。…気にしないでください…。
…子供と夫の話になると、…どうしても反射的にこうなってしまうので…」

「…すまない。泣かせてしまって」

前から手が伸びて来て、俯き加減の顔を包むように親指で涙を拭われた。
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