元通りになんてできない

頑張らなくていいなんて言われたら、弱い人間になってしまう。

「ん?…どう思ってる?」

あぁ…低くて鋭い声が身体を伝って聞こえる…。

「…ずるいです。その聞き方はずるいです」

「あぁ、…ずるいな」

「嫌いかと聞かれたら…、嫌いではないと言ってしまいます」

「ああ。それでいい」

「えっ」

身体を少し離した。

「嫌いじゃない。それで充分だ。俺に取っては最上級の言葉だ。今まで鷹山から気持ちを聞かされた事はなかったから…。嬉しいよ」

「部長…」

「…昔ならこんな事は聞かなかった…、有無を言わさずシテいた。チャンスはいつもあるんだ。しかし…俺も怖いんだ。臆病になるんだ。この歳で人を本気で好きになると…。避けられたらもう終わりだ。鷹山。…薫。
今、どうしようもなく、お前の唇が欲しいんだ。…返事は聞かない」

部長…。

身長の高い部長は、私の両頬を優しく包むと、屈み込むようにして首を傾げ、下から唇を押し当てた。
あ、部長…。……温かい…。こんなこと、感じちゃいけない気がする。…でも。
一気に唇を割って…、深く絡められた。ん…ん。角度を変えて、深くて甘い…、ベリーの香りがして…、胸が、切ない。
唇が離れていく。
…あ、…。離れていく部長の顔が切ない。

「はぁ、鷹山…。心臓が、止まりそうだ」

ずるい…そんな顔、言葉。
広くて大きな胸に抱きしめられた。その強さに、温かくて深い想いを感じてしまう。
ドクドクドクドク…。
騒がしい胸の音は部長の?それとも私のモノ?
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