元通りになんてできない
こんなモノ
「おはよう、幸元君。はい、これ」
「あ。有難うごさいます」
目立たないトーンの紙バッグに入れたお弁当を渡した。
私は今朝飲み足りなかったコーヒーが飲みたくなって給湯室に入った。
コポコポと、粉を入れたカップにお湯を注ぎ、冷ました。
…シロクマのマグカップ。みんなマイカップを持ち込んでいる。
これはクマ好きの私に信君が買ってくれたもの。…ちょっと今は可愛すぎるかも。
てっきり一人で居るものだと気を抜いていたら
「鷹山さん」と声を掛けられ、ビクッとなった。
「っ…、なんだ…幸元君。…びっくりした〜」
「すいません、大丈夫でしたか?あの…受け取っていて今更なんですが…、旦那さんは、その、大丈夫ですか?他人に弁当なんて。しかも、まあ、俺、男だし…。あ、もしかして内緒で作ってくれたとかですか?」
「ああ…そんな事?…大丈夫。ちゃんと断ったから…。大丈夫よ。…。…あのね、幸元君…口堅い?」
「まあ、普通だと思います」
「男の人はペラペラ噂話とかしないもんね」
「まあ、そうですね」
「あのね、誰にも言って無いし、…誰も知らない。…幸元君を信じて言うけど…」
ゴクッ。
「ま、待ってください。何を言おうとしてるのか解りませんが、聞かない方が良い事なら言わないでください」
「あ…そうね、…そうよね。幸元君に言ってもなんの得にもならないし…。いきなり、ごめんね?そうね、やめとくね」