元通りになんてできない
さあ、食べますか…。いつまでも見ていたってしょうがない。
俺は包まれた弁当を取り出し、膝の上に乗せ開けた。
あ…フ、女の子みたいな可愛い弁当だな。南瓜のハートが何とも…。
そうだった、娘さんだもんな、子供…。
小振りの物が色鮮やかに詰められていた。ん、美味しそうだ。
「あの〜…」
弁当を開けて眺めていたら、いつの間にかさっきのOLさん達が側に立っていた。全く気がつかなかった。
俯いていた俺は、声を掛けられ顔を上げた。
「キャッ!…、あの、私達、よく此処でお昼するんですけど…、あ、会社から近いので。それで、ね?」
隣の女子を突いている。え、私がって顔をしていた。交代で続きを言ってって感じだ。
「あ、あの、見掛けない…、その…、素敵な人だなと思って、ごめんなさい、いきなりお食事中に声を掛けて…」
そこまで言うと、また最初の子が話し掛けてきた。
「良かったら連絡先、交換して頂けませんか?」
ムクッと起き上がった営業マンはこっちを一瞥して出口に向かって歩きだした。
「あー…、いや。そういうのはちょっと…」
俺、…結婚するし。
「キャー、可愛いお弁当ですね。美味しそうだし、バランスも良さそうですね。カボチャのハート可愛い!」
「ああ、これは…」
…説明するのも面倒臭いな。
「彼女さんの手作りですよね?」
「うん、きっとそうだよ」
二人は顔を見合わせている。
…彼女…違うけど。あー、指輪、俺の指に指輪はないから。…にしても勝手に決めつけるもんだな。
「ごめんなさい、残念ですぅ。彼女さんが居るのなら駄目ですよね。お食事中、お邪魔してすみませんでした」
そう言うと呆気なく居なくなった。
なんだ?こっちからなんも言わなくても、自己完結していなくなってくれた。良かった。
気の毒なのはさっきの営業マンだよな。
静かになった。これでやっと食べられる。
さてと…、ミートボールを口に入れた。…旨い。優しい味だな…。
玉子焼きは少し甘めなんだな…。はぁ、こんなモノに食べ慣れてしまったら、他の物は濃くて食べられなくなりそうだ…。
鷹山さん、弁当旨いです…。