元通りになんてできない
直ぐには出られなかった。お昼休みになって、やっとメンズショップに駆け込んだ。
ハァハァ息を切らせて突入して来たおばさんに、面前までいきなり迫られたイケメン店員さんは、さぞや身の危険を感じた事だろう。
「はぁ…、す、すいません。ク、クレリックシャツは、はぁ…、置いてますか?」
「は、は、はい。こちらに、どうぞ」
「す、すみません。はぁ、有難うございます…」
もう、全然、駆け足どころか、…走れない。
あ、あった、あったけど…。えっ〜と、サイズ、サイズはと…。
首のサイズが気になったが多分これで大丈夫、いけるはず。
「こ、これ、これでお願いします」
「有難うございます」
少し赤い顔の店員さんに急いで押し付けるように渡し、タグを取って欲しいと告げた。
「プレゼントですか?」
「あー、えっと…、そうなんだけど、いえ、タグを取って頂くだけで大丈夫です。後は普通でいいです」
「畏まりました。少々お待ちくださいね」
笑顔で言葉を返された。
会計を済ませた。
お洒落なショップの袋に入れ、更に紙バッグに入れられるのをじっと見ていた。
「あ、もう少しお待ちください」
…。あ。
「大丈夫です」
「…お待たせ致しました。お送りします」
店先まで来ると、また、是非いらしてください、と渡された。
手提げ部分のベルト、握った手に手を重ねられた。
…?
「次は、ゆっくりめで…お時間のある時に、是非!お待ちしてます」
「あ、有難うございました」
なんだかゾワッとした。
男性店員もイケメンと言われる人じゃないと採用されないのかしら…。利用するのは男性が多いよね?…?
でも、私は普通の人がいいな…。何だか落ち着かないから…。