元通りになんてできない
思ったように進まない足で早歩きをした。
お昼休みの時間をほぼ費やしたから、時間はあまり残っていなかった。
幸元君、帰ってるかな?
あ、居た居た。
私は通路からジッと見詰め、目が合うのを待っていた。
…怖いな、これって。
そろそろ諦めて話し掛けようかと思っていたら、目が合った。
良かった。私は軽く手招きをした。
僕?って顔で、自分の顔を指しているから、うん、うんと頷いて見せた。
ほっ、伝わった。
こっちに来てる。
「あのね、幸元君これ…」
話は途切れ、いきなり手を引くと、慌てたように非常口から外階段に連れ出された。
え、え?
「すいません、強引に。どうしました?何だか、まずい事かと…。早まりましたか?俺」
「ううん、大丈夫。何も無い。これ、シャツなの、朝ぶつかったから」
ショップのバッグを差し出した。
あっ、これ…。…私ったら、慌てて…。
手招きして、こんなのあそこでそのまま渡そうとしてた…。しまった…。
「ごめん、うっかりそのまま渡そうとしてた。バカね…。有難う、気を効かせてくれたのね?」
「そういう訳じゃ無いです。結果、ただの勘違いです。鷹山さんこそ、こんな…、気を遣わないでください」
「でも、幸元君は汚れてたとしても、言って来ないと思ったから…。ほら、現にリップ、付いてるじゃない…」
うっすらだけど、色があるのが解る。指先を当てた。
「あ…では、遠慮無く受け取ります。有難うございます」