元通りになんてできない
知里を前に囲うようにして立っていた。
「動物園ですか?」
「え、あっ、幸元君…。そう」
プシュー。
ドアが開いた。押されるように降りた。危ない。もう、大変…。怖いくらい…。
「僕も一緒に行ってもいいですか?」
「うわっ、…え、びっくりしたぁ…」
もうてっきり近くには居ないものだと思っていた。
改札を抜けながら話した。
「なんて言ったらいいか…知里と二人だから…。知里?このお兄さんがうさぎのお兄さんだよ」
手を繋いで動物園に向かって歩きだしていた。
「うさたん、ありがとう」
お礼を言いながら幸元君をじっと見詰めている。初めて会った物凄い大きい人物に釘付けだ。興味津々といったところだろう。
「あ、可愛いな〜。純粋な目ですよね。何だか、何もかも見透かされてるみたいだし…、見詰められると吸い込まれそうですね」
「フフフ。子供の目って無垢な感じがハンパないもんね」
「たけるだよ。お兄ちゃん、たける、って言うんだ」
「たける?」
「うん、たける」
「幸元君、駄目よ。そのまな呼び捨てになるから」
「お、僕は構いませんから。知里ちゃん、たけるでいいからね」
「たける」
「はい」
「たける」
「はい!」
「キャハハッ。たけるたける」
「はい。は〜い」
「…本当、幸元君、ごめんね」
「いいっす、いいっす」
「いす?」
「あ…やばいですね」
「やばい」
「ゔ…喋ったらやばいですね」
「やばい、キャハハハ」
「…」
「…ごめんね、なんでも面白いのよ、新しい言葉とか響きとか。直ぐ覚えちゃうし…、言いたいのよね」
「話すと…」
小声になった。
「え?」
耳元に顔を寄せて、話すとまずいから、…無口になりそうです、と言う。
「フフフ、大丈夫よ、普通にして。すぐ慣れるから」