元通りになんてできない
「信君…?」
「あ、ごめん。…知里の、父親…です」
「たける、しんくんはずっとずっと、とおいところにいるの。おかあさんとちさとは、ずっとふたりになるの」
「知里…」
「え、えっ、どういう事ですか?…転勤?ですか?」
「…違うの。知里の父親は事故で死んだんです。
知里が二歳の時に。ごめんね、職場では言いそびれていて…、そのままなんです。誰も知らない…」
「あ、もしかして…、この間、僕が聞くのを遠慮した話は、この事だったんですね?
僕に話してくれようとした…」
「そう…。なんだかごめんね、言ってなくて。無理に聞かせてしまうような感じだったから」
「…いや、俺は別に」
「そうよね。知ったところで幸元君には得にもならない事、って前も言ったかな…」
「……」
「たける、おりる」
何だか力の抜けたような幸元君から下りた知里は、私に抱っこと言ってきた。
何も解らないのに、子供は敏感だ。本能がそうさせるのだろうか。
私の様子も、幸元君の様子も、さっきまでとは違うと感じたのだろう。
知里を抱き上げた。
「…。知里、おさるさんから見る?、キリンさんから見る?」
「おさるさん」
元々二人で来ているのだ。幸元君がどうするのかは幸元君が考えるだろう。子供の前で、聞かせちゃいけない話をしてしまったと思ったのかも知れない。だったら、それは仕方ない。悪気は無い。知里だって信君の死は曖昧だ。
「よーし、おさるさんとこ行こう」
「うん!」